賃貸のお部屋でご家族が孤独死されたとき、ご遺族を待っているのは、お別れの悲しみだけではありません。「部屋はどうなるのか」「家賃はいつまで払うのか」「原状回復の費用を請求されるのではないか」。こうしたご不安を、ご葬儀と並行して抱えることになります。
ここでは、賃貸住宅で孤独死が起きた場合に、お部屋の明け渡しや家賃、原状回復の負担がどのように整理されるのかをご説明します。神奈川全域で孤独死のご相談をお受けしてきた村岡葬研葬儀社が、ご遺族の立場でお伝えします。
まず、警察の調査が終わるまでお部屋は動かせません
ご遺体が発見された直後は、警察による調査が入ります。この間、お部屋は現場として扱われますので、片付けや清掃には着手できないのが通常です。いつから手をつけてよいかは、担当の方にご確認ください。
「早く何とかしなければ」と焦られる気持ちはよくわかります。ただ、この段階でご遺族が動ける範囲はほとんどありません。まずは故人様をお見送りすることに気持ちを向けていただいて大丈夫です。お部屋のことは、そのあとで間に合います。
貸主・管理会社へは、早めに一報を入れておく
連絡そのものは、早い段階で入れておかれることをおすすめします。何も知らされないまま時間が経つと、あとで話がこじれる原因になりやすいためです。
お伝えする内容は、現時点で分かっていることだけで構いません。故人様が亡くなられたこと、警察の調査が入っていること、片付けに入れる時期はまだ分からないこと。この三点を共有しておくだけでも、相手方は状況を把握できます。
あわせて、賃貸借契約書の控えがあれば探しておいてください。連帯保証人の有無、家賃の額、解約の予告期間など、あとの話し合いで必要になる情報がまとまっています。
賃貸借契約は、亡くなっても自動では終わりません
ここは誤解の多いところです。借りていた方が亡くなっても、賃貸借契約はその時点で消えるわけではありません。
民法では、相続人は相続開始の時から被相続人の財産に属した一切の権利義務を承継すると定められています。賃借人としての立場も、原則としてこれに含まれると考えられています。つまり、相続を承認された場合は、解約してお部屋を明け渡すまでの間の家賃をご負担いただくのが原則です(相続放棄をされた場合の扱いは、のちほどご説明します)。
だからこそ、特殊清掃や遺品整理をいつまでも先延ばしにすると、その分だけ家賃がかさみます。急ぐ必要はありませんが、見通しだけは早めに立てておかれるほうが、結果的にご負担が軽くなります。
原状回復と特殊清掃は、どこまでがご遺族の負担になるのか
発見までに時間が経っていた場合には、消臭や消毒を伴う特殊清掃が必要になることがあります。床材の張り替えなど、お部屋の状態によっては原状回復の工事が加わることもあります。
費用を誰が負担するのかは、借りていたご本人の相続人、連帯保証人、保証会社や保険、そして貸主側、という順に検討されていくのが一般的です。貸主側が孤独死に備えた保険に加入している場合もありますので、話し合いの際に確認されるとよいでしょう。
金額はお部屋の広さや傷み具合によって大きく変わります。数十万円で収まることもあれば、100万円を超えることもあり、事前に一律の目安を示せるものではありません。言われた金額をそのまま受け入れず、内訳の説明を求めてください。可能であれば複数の業者から見積もりを取ることをおすすめします。負担の順序や清掃と遺品整理の進め方については、孤独死・自死のあとの特殊清掃と遺品整理で詳しくご説明しています。
「事故物件になるのでは」というご不安について
ご遺族から必ずと言っていいほど伺うのが、「事故物件扱いになって、その分まで請求されるのではないか」というご心配です。
この点については、国土交通省が令和3年10月に「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を公表しています。ガイドラインでは、老衰や病死といった自然死、日常生活の中での不慮の死については、原則として次の借主に告げなくてもよいとされています。ただし、長期間人知れず放置されたことなどに伴って特殊清掃等が行われた場合は、この限りではありません。
その特殊清掃等が行われることとなった死が発覚してから、賃貸借取引においては概ね3年間を経過した後は、原則として借主に告げなくてもよいとされています。ただし、事件性や周知性、社会に与えた影響などが特に高い事案は、この限りではないとされています。また、告げる際にも、氏名・年齢・住所・家族構成や具体的な死の態様、発見状況までを告げる必要はないとされています。
ただしこのガイドラインは、不動産会社が次の入居者にどこまで説明すべきかを整理したものであり、ご遺族の賠償責任の範囲を定めたものではありません。家賃の下落分などを請求された場合の扱いは、事案ごとに判断が分かれますので、そうした請求を受けたときは弁護士などの専門家にご相談ください。
相続放棄をお考えの場合の注意点
負債が多い、あるいは費用を負担できないという事情から、相続放棄をご検討される方もいらっしゃいます。相続放棄は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内に、家庭裁判所で手続きを行う必要があると定められています。なお、財産の調査に時間がかかる場合など、家庭裁判所に申し立てることでこの期間を伸ばせる場合もあります。孤独死では発見までに時間が経っていることも多く、気づいたときには期限が迫っていたということが起こりがちです。3か月が近づいている、あるいは過ぎてしまったとお感じの場合も、あきらめずに弁護士や司法書士にご相談ください。
注意していただきたいのは、相続放棄をしても、お部屋のことから完全に手が離れるとは限らないという点です。民法では、相続の放棄をした方は、その放棄の時に相続財産に属する財産を現に占有しているときは、相続人または相続財産の清算人に引き渡すまでの間、自己の財産におけるのと同一の注意をもってその財産を保存しなければならないと定められています。
逆に言えば、遠方にお住まいで、お部屋の鍵も荷物もお持ちでないなど、「現に占有していない」場合には、この義務は生じないと考えられています。ご自身がどちらに当たるのかは、鍵を受け取ったか、荷物を持ち出したかといった事情で変わりますので、判断に迷われたら手をつける前にご確認ください。
また、連帯保証人になっている方がいる場合、相続人が放棄をしても、連帯保証人の責任が当然に消えるわけではないとされています。どこまで責任が及ぶかは、契約の内容や締結の時期によって判断が分かれます。なお、賃貸借契約の個人の連帯保証(民法でいう個人根保証契約)については、2020年4月以降に結ばれたものは、上限額(極度額)を定めなければ効力を生じないとされています。
相続放棄をお考えなら、遺品や故人様の財産に手をつける前に、弁護士や司法書士にご相談ください。判断を誤ると、放棄が認められなくなる可能性があります。引き取りと相続放棄の関係については、ご遺体の引き取りを断ることはできますかもあわせてご覧ください。
ご負担を抑えるためにできること
まず、明け渡しまでの期間を短くすることです。家賃は日々発生しますので、清掃と遺品整理の段取りを早めに組むだけで、総額は変わってきます。
次に、故人様が加入されていた火災保険(家財保険)の確認です。原状回復に関わる補償の特約が付いている場合があります。契約書類や通帳の引き落とし履歴を確認してみてください。あわせて、貸主側が孤独死に備えた保険に加入していないかも、話し合いの際に確認してみてください。
そして、やり取りの記録を残すことです。誰と、いつ、どのような話をしたのか。金額の提示を受けたときは、口頭ではなく書面でもらう。これだけで、後々の食い違いを防げます。
ご葬儀と並行して進めるときの順番
優先していただきたいのは、ご遺体の搬送と安置、そして火葬までの手配です。お部屋のことは、そのあとで構いません。
ご葬儀を終えて少し落ち着かれてから、貸主・管理会社との具体的な話し合い、清掃業者の選定、遺品整理へと進んでいただくのが、ご負担の少ない順序です。一度にすべてを抱えようとすると、判断を誤りやすくなります。
神奈川で賃貸住宅の孤独死に直面されたときは
賃貸のお部屋での孤独死は、ご葬儀と、お部屋の後始末と、貸主とのやり取りが一度に押し寄せます。順番に片づけていけば必ず終わりますので、まずは手の届くところからで大丈夫です。
契約や賠償についての法的な判断そのものは、弁護士など専門家の領域になります。一方で、ご遺体のお迎えから安置、行政手続き、火葬までは私どもがお引き受けできますし、特殊清掃や貸主・管理会社とのやり取りについても、提携する業者とともに進め方をご案内できます。ご家族が個別に何か所も業者を探される必要はありません。
村岡葬研葬儀社は、警察案件を専門に、神奈川全域で24時間365日ご相談を承っています。変死・孤独死・自死・検視後のご遺体対応を通算400件以上お手伝いしてまいりました。まだ何も決まっていない段階でも、匿名でのご相談でも構いません。どうかお一人で抱え込まず、お声がけください。