
【記事について】 本記事に登場するエピソードや会話は、当社がこれまでに携わった数多くの実例を基に再構成した物語です。プライバシー保護のため、特定の個人や実際の事件を指すものではありません。警察案件における現場の空気感や、ご遺族様の心情をより深くお伝えするためにストーリー形式で執筆しております。
プロローグ:深夜のサイレンと、置き去りにされた心
「どうしてですか! 父は家で倒れただけなんです。事件なんかじゃありません!」
深夜、静まり返った住宅街に、ご家族の悲痛な叫び声が響くことがあります。 愛する家族が息をしていない。その事実に打ちひしがれている最中、救急隊員ではなく、制服を着た警察官が土足で部屋に入ってくる。そして、「現場保全」と言われ、亡骸に触れることさえ許されなくなる――。
私たち葬儀社は、こうした「警察案件」の現場に数多く立ち会います。 病院で医師に看取られて亡くなるケースとは異なり、自宅での急死や事故、あるいは孤独死などの場合、日本の法律では警察による「検視(けんし)」や「検案(けんあん)」が必須となります。
ご家族の心情は、察するに余りあります。 大切な人を失った悲しみだけでも耐え難いのに、まるでドラマの殺人現場のような扱いを受け、場合によってはご家族自身が事情聴取を受ける。「犯罪者扱いされたようで屈辱だった」と涙を流される方も少なくありません。
「早く返してほしい」 「静かに送ってあげたい」「なぜ、こんな目に遭わなければならないのか」
その憤りはもっともです。しかし、数千件のお見送りをお手伝いしてきた葬儀屋として、私はこの「警察の介入」について、少し違った視点を持っています。 それは、「死因を究明することは、故人が懸命に生きた人生に対する、社会からの最後の敬意である」という考え方です。
今回は、あまり語られることのない「警察署での時間」と「検視・解剖」の意味について、少し深く、そして静かにお話ししたいと思います。
第一章:「死因不明」という名の空白
そもそも、なぜ警察が介入するのでしょうか。 「事件性の有無を確認するため」というのは、あくまで行政や警察側の理屈です。これを故人とご家族の視点に置き換えると、別の意味が見えてきます。
それは、「その人の人生の幕引きを、あやふやにしない」ということです。
もし、警察が介入せず、死因も調べずに火葬してしまったらどうなるでしょうか。 「お父さんは、なんで死んじゃったの?」 将来、お孫さんにそう聞かれた時、「わからないの。朝起きたら冷たくなっていたから」としか答えられないとしたら、それはとても悲しいことではないでしょうか。
苦しかったのか、眠るように逝ったのか。 持病が悪化したのか、予期せぬ発作だったのか。
その「最期の瞬間」の真実を知ることは、遺された家族がこれから生きていくための「納得」の材料になります。「苦しまずに逝けたんだ」「天寿を全うしたんだ」と腑に落ちることで、はじめて弔いの準備ができるのです。
私たちは、警察署の霊安室でご家族と待ち合わせをします。 検視官や警察医が到着するまでの数時間、時には半日以上、硬いパイプ椅子で待ち続けることもあります。その長く重苦しい時間、私はご家族にこうお伝えすることがあります。
「今、先生たちが一生懸命、お父様がどうやって人生を終えられたのか、その証明を探してくれていますよ」
警察の介入は、決して故人を「モノ」として扱うためのものではありません。 「この人は、誰知れず消えていい存在ではない。死の原因を公的に証明すべき、尊厳ある人間である」 そう社会が認めているからこそ、多大な税金と人員を割いて、死因を究明するのです。
第二章:解剖という「声なき声」を聞く作業
![]() |
時に、外見だけの検視では死因が特定できず、「解剖(行政解剖や司法解剖)」が必要になることがあります。 |
|---|
第三章:警察署からの帰還、そして葬儀社の出番
検案が終わり、「死体検案書」が発行されると、ようやくご遺体はご家族のもとへ帰ることができます。 ここからが、私たち葬儀社の本当の出番です。
警察案件や解剖を経たご遺体は、正直に申し上げて、生前のお姿とは変わってしまっていることが多々あります。 死後硬直や乾燥でお顔の色が変わっていたり、解剖の処置で包帯が巻かれていたり。そのままのお姿では、ご家族も安心して触れることがためらわれる場合があります。
「変わり果てた姿を見たくない」 そう怯えるご家族に、私たちは自信を持ってこう言います。 「大丈夫です。私たちが、ちゃんとお父様のお顔に戻しますから」
ここにあるのは、単なる「化粧」の技術ではありません。 警察署という「非日常の空間」で、捜査の対象として扱われてしまったご遺体を、温かい家庭の「家族」に戻すための儀式です。
硬直した筋肉を優しくほぐし、お顔の色を整え、乱れた髪を直す。 解剖の傷跡があれば、お洋服やお着替えで誰にも分からないように丁寧にお包みする。 必要であれば、エンバーミング(ご遺体衛生保全)の技術を用いて、生前のようなふっくらとした表情を取り戻すこともあります。
ある奥様が、警察署から戻ってきたご主人の頬に触れ、こう仰いました。 「ああ、やっと帰ってきたね。警察署にいた時は、なんだか他人みたいで怖かったけど、この顔を見たら、やっとお父さんだって思えたわ」
この言葉を聞いた時、私たちは心から安堵します。 警察が「死因」という真実を明らかにする役割なら、葬儀社は「人としての尊厳」を取り戻す役割を担っています。どちらが欠けても、納得のいくお別れはできません。
第四章:傷跡も含めて、その人の「生きた証」
![]() |
お葬式の打ち合わせの中で、死体検案書(死亡診断書と同じ役割のもの)に記載された死因を見て、ご家族がポツリと語り始めることがあります。 |
|---|
エピローグ:村岡葬研が大切にしていること
「心に響き、心に残るお葬式」 これは私たちが掲げているテーマですが、この言葉の重みが最も試されるのが、こうした警察案件の時だと感じています。
予期せぬ別れに、心は千々に乱れます。 だからこそ、私たちは通常のお葬式以上に、ご家族の心のケアと、ご遺体のケアに全力を注ぎます。
物理的な傷を癒やす技術。 心の動揺を鎮める言葉。 そして、何よりも「あなたの家族を大切に思っています」という想い。
警察署の無機質な霊安室から、温かいお花の香りがする祭壇へ。 その架け橋となることが、私たち葬儀社の誇りであり、使命です。
もしもの時は、どんな時間でも、どんな状況でも頼ってください。 私たちは、悲しみの渦中にいるあなたを、決して一人にはしません。 故人様が、威厳を持って旅立てるよう、そして遺された皆様が、胸を張ってお見送りできるよう、誠心誠意お手伝いさせていただきます。





