
警察から「遺体を引き取りに来て」と言われたご家族へ。事件性がなくても行われる検視の流れ、警察署での対面の心構え、そして制約がある中で故人を温かく見送るための具体的な方法を葬儀のプロが解説します。後悔しないお別れのために、まず一読ください。
「○○警察署の刑事課ですが、ご家族の○○様がお亡くなりになりました。至急、署まで来てください」
突然鳴り響いた電話。その内容が現実のこととは受け止めきれず、頭が真っ白になったまま警察署へ向かわれた方もいらっしゃるかもしれません。
大切な方が亡くなった悲しみだけでも計り知れないのに、そこへ「警察」という非日常的な要素が加わることで、ご遺族の心労は極限に達します。「何か事件に巻き込まれたのか?」「自分が疑われているのか?」「まるで犯人のような扱いだ」……事情聴取の中で、そんな不安や憤りを感じることも無理はありません。
しかし、まず最初にお伝えしたいことがあります。 ご家族が警察扱いになったことは、決して故人様やご家族が悪いわけでも、恥ずべきことでもありません。
日本では、病院で医師の管理下で亡くなった場合以外は、原則として警察が介入するルールになっています。それは「事件性の有無」を確認し、故人の死因を正しく特定するための法的な手続きに過ぎません。
この記事では、突然の出来事に混乱されているご家族へ向けて、警察が介入するご葬儀の流れと、様々な制約がある中でも故人様を「温かく、人間らしく」お見送りするためにできる具体的な方法について、数多くの警察案件に立ち会ってきた葬儀の専門家の視点から解説します。
1. なぜ警察が介入するのか?「検視」という現実を知る
まず、なぜ愛する家族が警察署に連れて行かれなければならなかったのか。その理由とこれからの流れを整理しましょう。ここを理解するだけで、漠然とした恐怖心は少し和らぎます。
![]() |
|
|---|
これらは非常にプライベートで、時には答えたくないような質問も含まれます。「疑われているのではないか」と不快に感じるかもしれませんが、警察官も職務上、あらゆる可能性(事件性)を排除するために聞かなければならないのです。決してあなたを責めているわけではありませんので、落ち着いて事実を伝えれば大丈夫です。
「解剖」になるケースと日程への影響
検視の結果、外見からは死因が特定できない場合や、より詳しく調べる必要があると判断された場合は、「解剖(かいぼう)」が行われます。(※地域によって「行政解剖」や「司法解剖」などの種類がありますが、ここでは詳細を割愛します)
解剖が行われる場合、ご遺体が戻ってくる(引き渡し)までに半日から数日、場合によっては1週間近くかかることもあります。そのため、一般的な葬儀よりも日程が後ろ倒しになることを覚悟しておく必要があります。
2. 警察署での対面と「ご遺体の変化」への心構え
警察からの連絡を受けて駆けつける際、あるいは検視が終わってご遺体を引き取る際、最もご家族が動揺されるのが「ご遺体の状態」と「安置環境」です。
![]() |
|
|---|
こうした変化を目の当たりにすることは、ご家族にとって強烈なショックとなり、場合によってはトラウマ(心的外傷)になってしまうこともあります。
もし、心の準備ができていないと感じたら、無理にご遺体を見ようとせず、まずは葬儀社のスタッフに確認してもらうことをお勧めします。 私たちプロは、ご遺体の状態を確認し、「今はまだお顔を見ないほうがいいかもしれません」「お洋服を着せて、綺麗にしてから対面しましょう」といった適切なアドバイスができます。
3. 「温かく見送る」ためにできる具体的なケア
「事件性なし」と判断され、警察から引き渡しの許可が出たら、ようやく葬儀社がご遺体をお迎えに行きます。ここからが、私たち葬儀社とご家族の腕の見せ所です。警察署での「冷たい時間」を、「温かいお別れの時間」に塗り替えるためにできることを具体的にお伝えします。
① プロによる処置(エンゼルケア・エンバーミング)
警察案件の葬儀において、最も重要なのがお身体のケアです。解剖などが入ったお身体は、そのままではご家族が安心して触れ合ったり、お顔を近づけたりすることが難しい場合があります。
そこで、専門的な技術を持ったスタッフ(納棺師など)による処置を行います。
- お身体の洗浄・縫合
解剖の傷や怪我の跡を綺麗に手当てし、包帯や衣服で見えないように整えます。
- 死化粧(エンゼルメイク)
苦悶の表情を和らげ、血色を補い、生前の安らかなお顔に近づけます。
- 衛生保全
時間経過による匂いやお身体の変化を抑える処置を施します。
「警察署で見た時は別人かと思ったけれど、メイクをしてもらったら、いつもの父の顔に戻っていた」そう言って、初めて安心して涙を流せるご家族もいらっしゃいます。「触れられる状態に戻す」ことは、きちんとお別れをするための第一歩なのです。
② 「直葬(火葬のみ)」でも、お別れの時間をあきらめない
警察案件の場合、「ご遺体の状態が良くないから」「費用を抑えたいから」という理由で、通夜・告別式を行わず、火葬場へ直接向かう「直葬(ちょくそう)」を選ばれる方も増えています。
しかし、直葬=何もしない、ではありません。
警察署から火葬場へ直行するのではなく、一度、葬儀社の安置施設やご自宅にご遺体を安置し、数時間でも一晩でも「家族だけの時間」を過ごすことを強くお勧めします。
好きだった服に着せ替える
警察署では浴衣やシーツ姿だった故人に、愛用していた洋服や着物を着せてあげてください。
- 好物を供える
コンビニで買ってきたお酒や、好きだったお菓子を枕元に供えるだけでも立派な供養です。
- お棺にお花を敷き詰める
火葬炉に入る直前、お顔周りをたくさんのお花で飾ってあげてください。
形式的な儀式(お経や焼香)がなくとも、こうした「ケア」こそが、故人様への最大の敬意であり、ご家族の心の整理につながります。
③ 警察署から自宅へ帰るという選択
「長い間、冷たい場所にいたから、せめて一晩だけでも家に帰してあげたい」その想いは、可能な限り叶えるべきです。
マンションのエレベーターの事情やお部屋の状況でご自宅への安置が難しい場合でも、火葬場へ向かう霊柩車でご自宅の前を通り、少し停車して「帰宅」とするプランに対応してくれる葬儀社もあります。希望があれば、遠慮なく相談してください。
4. 事務手続きと費用のリアル
最後に、現実的な「お金」と「手続き」の話をしておきます。いざという時に慌てないために知っておいてください。
![]() |
|
|---|
これらは葬儀社によって料金設定が異なります。警察案件の経験が豊富な葬儀社であれば、事前に概算を提示してくれるはずです。
まとめ:「ごめんなさい」ではなく「ありがとう」で送るために
警察署での手続き、事情聴取、そして変わり果てた姿との対面。これらはご家族にとって、あまりにも辛く、重い経験です。
「もっと早く気づいてあげればよかった」「一人で逝かせてしまってごめんなさい」「警察の世話になってしまって申し訳ない」
多くのご家族が、自分を責め、罪悪感に苛まれます。しかし、故人様が最後に望んでいるのは、家族の謝罪や後悔の言葉でしょうか?きっと、そうではないはずです。
どんな亡くなり方であったとしても、その人が懸命に生きた人生の価値は変わりません。警察の捜査が終われば、そこからはご家族の時間です。
警察署の無機質な空間から連れ出し、綺麗にして、温かい布団(お棺)に寝かせ、大好きだったものに囲まれて送ってあげる。そのプロセスを通じて、「ごめんなさい」という後悔を、「今までありがとう」という感謝に変えていくこと。それが、警察扱いになった故人を温かく見送るための、唯一にして最大の方法です。
もし、警察から連絡があり、どうしていいか分からない時は、まず私たちのような葬儀社にご相談ください。私たちは警察の手続きも、お身体のケアも熟知しています。あなたが一人で抱え込んでいる不安を、一つひとつ取り除くお手伝いをさせていただきます。
焦る必要はありません。まずは深呼吸をして、頼れるプロの手を借りてください。






